« 2020年11月 | トップページ | 2021年1月 »

2020年12月31日 (木)

忘れようとして(48)~新選組副長:土方歳三~その7~お雪みたび

Img_20200828_113335

(前回からのつづきです)

 

では、歳三が涙を見せた場面を、もうひとつ見てみましょう。

 

 

前回記事より2年後の1869年(明治2年)、

土方歳三は蝦夷の地に。

そして、

五稜郭に司令部を置く“函館政府軍”の下で、

官軍との戦いに明け暮れていました。

 

そんな戦時の際に、信じられないことが……。

なんと、お雪がはるばる江戸から歳三を訪ねてきたのです。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

背後が、しんとした。

お雪の小さな心臓の音まできこえるようであった。

「来ては、いけなかったでしょうか」

「…………」

歳三は、ふりむいた。

まぎれもなくお雪がそこにいる。右眉の上に、糸くずほどの大きさで、

火傷(やけど)の古いひきつりがあった。

歳三が、何度かその唇をあてた場所である。

それを見確かめたとき、不覚にも歳三は、ぼろぼろ涙がこぼれた。

「お雪、来たのか」

~~~~~~~~~~~~~~~司馬遼太郎「燃えよ剣」(下)『再会』より

 

歳三は背後にお雪が現れた気配を感じますが、

素直に振り向くことができません。

 

もちろん嬉しいには決まっていますが、

現実にお雪を眼前にしたら、自分がどうなってしまうか、

見当がつかない。

そのことが怖かったのですね。

 

ですから、窓の外を見ながら。

そこから見える函館湾の景色の説明を

喋りつづけていました。

 

そして、

歳三は後ろを振り返りますが―その瞬間、

とめどなく涙を流してしまいます……

 

 

前回と今回、

“鬼の副長”と恐れられた歳三にとって、

「涙」は最も似つかわしくないものでしょう。

その土方歳三が泣いた場面

―両方のシーンにお雪が係わっていました―

をご紹介しました。…

 

 

司馬遼太郎の原作を読んでいただければ、

なぜ、二人がこのような激しい愛の渦中に

身を投じることになったのか、

そのあたりの“輪郭”が、見えてくると思いますので、

あらためて、御一読をオススメいたします。

 

 

さて、お雪がどんな女性だったか…

それを探るために、二人の出逢いにまで遡ってみましょうか。

 

ある雨の夜のこと。

歳三が一人で壬生の新選組屯所へ帰るときに、

4-5人の討幕派浪士から襲撃を受けたのです。

2名は斬り倒しましたが、その後、逃走をはかります。

(負ける喧嘩はしないのが真の「喧嘩師」なのです)

なんとか逃げおおせたものの、

左腕、右脚のもも・甲に傷を負いました。

とりあえずの止血と手当てのために、

偶然飛び込んだ民家に居た女性が

お雪だった、というわけです。

 

この女性の人となりが巧みに描出された部分を読んでみます。

 

手傷を負った見ず知らずの男が、夜遅く転がり込んできたというのに、

お雪は落ち着いていました。

 

(武家の女か)

 

歳三はすぐさまそれを悟ります。

応急の手当は自ら施しましたが、

彼の着物は刀に切り裂かれ、また、雨と血で汚れきっている。

そんな歳三に、

お雪は、羽織・袴・襦袢まで用意して差し出すのです。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「それは、ご好意だけ頂戴しておく。

 まだ血がとまらぬというのに、せっかくお大事のお品を

 汚(けが)しては申しわけない」

歳三は褌一つ、晒でぐるぐるしばりの姿のまま、大小をつかんで立ちあがった。

「そのまま、御帰陣なさいますか」

新選組副長ともあろう名誉の武士が、といった眼の表情である。

「お召くださいまし」

うむをいわせず、命ずるようにいった。

~~~~~~~~~~~~~~~司馬遼太郎「燃えよ剣」(上)『お雪』より

 

 

“ポイント”は最後の

お召くださいまし」―ですね…

新選組の鬼副長に指図するとは、なかなかの人物です(笑)。

 

お雪が京に来て以来、彼の噂はよく耳にしていましたが、

実際に遇ってみると、そんな噂とは、

全くかけ離れた人物でした。

 

一方の歳三も、お雪のことを

“肚のすわった女性”であること、

また、なによりも話す言葉や顔立ちから、

江戸の出であることが見てとれ、

それが歳三には懐かしかったのです。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼▽▼△▼△▼

 

このお雪を1970年のTV映画で演じていたのが

磯部玉枝という女優でした。

丸顔で、魅惑的な大きな眼が特徴。

 

…なんて書きましたが、どなただったかすっかり忘れていまして、

本稿を書くにあたり、あわてて調べた次第です(苦笑)。

 

このたびの映画では、

柴咲コウが抜擢されています。

“個性派”の彼女が扮するお雪には、興味が尽きません。

芯が強く凛とした感にあふれる彼女ならば、

まさに適役ではないですか!

 

(つづく)(文中敬称略)

 

*司馬遼太郎『燃えよ剣』は、新潮文庫版から引用しました。

| | コメント (0)

« 2020年11月 | トップページ | 2021年1月 »