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2007年9月16日 (日)

「艶華」。(あるいは、「極私的中森明菜論」)

§「悲しくない酒」。

(前回のつづきです)

艶華-Enka-(初回盤B)

中森明菜が、このたび、アルバム「艶華」を発表した。

さて、このアルバムの中で、美空ひばりの、あの名曲「悲しい酒」を、明菜はカバーしている。

だがしかし、彼女はこの歌を、なんと淡々と歌っていることか。感情の起伏もなく、また、曲間のセリフでさえ、こともなげにつぶやくのみである。

「涙」を、いや、「感情」もさえ、彼方に押しやった明菜は、一体、何処へ行こうとしているのだろうか。

「そういう、アナタたちは、どうなのよ」*

そう、「感情」を捨て去ったのは、明菜だけではないだろう。

それは、ネットと、ゲームに明け暮れる、無表情・無感動の、「21世紀のニッポン人」のイメージを想起せざるを得ない。

そう、明菜の歌う、“悲しくない酒”に、私は、現代社会の投影を見てしまう。

(それは、当然のこと、筆者自身をも、反映しているのだが)

確かに、何もかも豊かになった現代ではあるが、我々は、大事なものを失ってはいまいか。物質的には、満たされても、何かが欠落してしまった今、「精神的飢餓」の情況にあるに違いない。

そして、満たされぬ魂が、虚空を彷徨う(さまよう)ように、明菜の歌もまた、彷徨い続けるのであろう。

§孤高の歌姫。

筆者は今まで「演歌」と表記してきたが、御存じのように、従来、いろいろな「enka」が、存在してきた。

まず「演歌」そして、「艶歌」、また、「怨歌」、「炎歌」、「恨歌」、「援歌」、「厭歌」etc

しかし、中森明菜のこのCDを聴いてみると分かるが、明菜の今回の楽曲は、これらのどのジャンルにも、あてはまらないのである。

千住明が、今回も引き続きオーケストレーションを担当しているが、このような、(ある意味、“装飾過剰”な)フルオーケストラをバックにすると、少なくとも、場末の居酒屋とか、屋台で流れてくる歌…というふぜいではなくなってくる。

中森明菜の歌唱は、あくまで淡々としていて、80年代のように歌い上げるシーンも無い。それは、(あえていえば)拍子抜けするほどだ。

「ここ、当然、『ノン・ブレス』で歌うところでしょ」という箇所でも、堂々と、ブレスして歌っている。

また、いわゆる、「演歌」特有の「こぶし」をまわすところも無い。

そのとおり、このアルバムは、「演歌」などではない。

「わたしが、いままでのような『演歌』など歌う必要ないでしょ」*

そんな明菜の声が聞こえてくるようだ。

タイトルも、「演歌」に非ず、「艶華」とあるように、これはやはり、明菜のみが創り出せる、彼女独自の世界観なのだ。

「あたしは、もう、『時代』と“寝ない”からね」*

「時代」が彼女をもてはやしたアイドル期、だがしかし、徐々に「時代」は、明菜を通り過ぎ、彼女もまた、そんな「時代」と距離を置くようになっていく。

そして、「時代」は、明菜を忘れ去ったように見えたが…。

「演歌」をベースにした、このアルバム「艶華」の発表。考えてみれば、これほど、「挑発的」な企画が他にあろうか。

§そして、……。

このアルバム「艶華」をひっさげての、コンサート・ツアーの噂もあったが、その後の具体的な話は、私は、耳にしていない。また、キャンペーンにしても、結局、ほとんど無かったようだ。(某神社でのヒット祈願シーン以外は)

今回のこれらの楽曲が、既成のどのジャンルにも、あてはまらないのと同様、

「歌姫・明菜」は、「時代」と隔絶した道を、ただ一人で歩み続けていくことを、余儀なくされるのだろうか…。

かくして、明菜のヴォーカルは、彷徨い続ける。

天城越え」「無言坂」、そして、「石狩挽歌」……。

彷徨えば彷徨えるほど、それは、美しく、また妖しい魅力を放ちつつ、私達を包み込んでゆく。

その「彷徨えるヴォーカル」に、あたかも鏡のように、我々は自分自身を投影し、明菜とともに、浮遊し続けるのだ。

(この現代社会の、不安・不条理から、束の間の逃避をはかるように)

この浮遊する感覚は、幼い日に見た、「崖(あるいは階段)から落ちていく夢」の気分に、どこか似ている。

そうだ、せめてアルバム「艶華」を聴く間は、この「幸せなる絶望感」に浸ってみるのが、いいのかもしれない。

艶華-Enka- 艶華-Enka-

アーティスト:中森明菜
販売元:UNIVERSAL SIGMA(P)(M)
発売日:2007/06/27
Amazon.co.jpで詳細を確認する

最後に、“余計な御世話”として、筆者のオススメだが…

聴きどころは、悲しくない…いや、「悲しい酒」(オリジナル歌唱:美空ひばり)。

酒にただれて、ハスキーになった(?)、明菜の歌声が、リアルに過ぎる。

あと1曲、「越冬つばめ」(同:森昌子)。“本家”より、イイかも。

「明菜ファン」ならずとも、「演歌ファン」また、「アンチ演歌派」にも、一度は、聴いていただきたい。

 ―了―

(注:*印を付した、「  」内のコメントは、筆者の“フィクション”で、中森明菜さんとは、何ら、関係ありません)

(付録)  ~~~~~~~~~~~~~

ご存じのように、中森明菜さんは、カバーアルバム「歌姫」シリーズのCDを、発表されている。累計売上が100万枚、というから、かなりの人気シリーズである。

その中より、(またまた)独断と偏見による、ご紹介を。(ほとんどのレンタル店で常備、中古も多く出回っている)

    

歌姫3〜終幕 Music 歌姫3〜終幕

アーティスト:中森明菜
販売元:ユニバーサルミュージック
発売日:2003/12/03
Amazon.co.jpで詳細を確認する

                              

東京砂漠」(オリジナル歌唱:内山田洋とクールファイブ)、それに、

」(同:松山千春)がいい。泣ける。

~~~~~~~~~~~~~

歌姫(スペシャル・エディション) Music 歌姫(スペシャル・エディション)

アーティスト:中森明菜
販売元:ユニバーサル・シグマ
発売日:2002/12/04
Amazon.co.jpで詳細を確認する

なんといっても、ラストにおさめられた

私は風」(同:カルメン・マキ)が絶品中の絶品

ダマサレた、と思って聴いてみてほしい。「明菜、おそるべし」を、体感できよう。

これを聴かずして、ヴォーカリスト「中森明菜」を語るべからず。

(ちょっと、オーバーか)

  (文中敬称略、長文乱文及び妄言多謝)

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 by 水元図書館YA担当

投稿: 亀有 | 2008年2月 1日 (金) 09時21分

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